「Mad as a Hatter」の謎を解く、帽子と歴史の不思議な旅 🇬🇧

#03🎩 Carnet de Haute Mode d’Emera / エメラのオートモード手帖🎩

「Mad as a Hatter(帽子屋の狂気)」という英語の慣用句、どこかで耳にしたことはありませんか?

このフレーズは、19世紀の帽子製造にまつわる驚くべき歴史に由来します。

今回は、フェルト帽の製作過程とその裏に隠された物語を紐解きながら、帽子が織りなす歴史の旅へご案内します。

水銀と帽子職人の過酷な現実

当時、フェルト帽の製造には「キャロッティング(carroting)」という工程が欠かせませんでした。この工程では、毛皮・獣毛を滑らかにし、フェルト化を促すために水銀硝酸塩が使われていました。

しかし、この水銀化合物は職人たちに深刻な健康被害をもたらしました。

震え、精神錯乱、記憶障害――これらの症状は「水銀中毒」の典型で、帽子職人たちの間で広く見られました。この症状が「Mad as a Hatter」という表現の起源となったのです。

さらに驚くべきことに、昔の毛皮洗浄には尿が使われていた時代もありました。

特に、梅毒治療に水銀を用いていた職人の尿が効果的だとされ、奇妙なことに帽子製造の品質向上に一役買っていたのです。

「ダンバリーシェイク」と労働者の闘い

水銀の使用は英国だけでなく、世界中に広がりました。

米国コネチカット州ダンバリーの帽子産業では、水銀中毒による震えが「ダンバリーシェイク」と呼ばれる労働災害として問題に。

この歴史は、労働者の権利と企業の責任を考えるきっかけにもなりました。

🔗 [詳しくはこちら: Connecticut History]


帽子文化の華やかな遺産と博物館の魅力

現在では厳しい規制により、水銀は帽子製造に使用されていません。

産業革命の時代、英国マンチェスター近郊のストックポートは、紳士帽子の製造で世界に名を馳せる一大産業地として栄えました。

フェルト帽をはじめとする洗練された帽子は、当時のファッションと文化を象徴する存在でした。そんな帽子産業の輝かしい歴史と職人技の魅力を今に伝える場所が、

Hat Works Museumです。

世界でも珍しい帽子専門博物館であるHat Works Museumでは、華やかな展示を通じて帽子の製作工程やその文化的背景を体感できます。

🔗 [Hat Works Museum]

🇬🇧ストックポートの帽子博物館 Hat Works Museum

ストックポートは、マンチェスターから電車で約10分。


ロンドン・ユーストン駅から “Avanti West Coast”で約2時間の距離にある街です。

陶器で有名なストーク・オン・トレントの近くでもあります。

🔗 [Avanti West Coast]

かつてストックポートは、ビーバーや野兎の毛を活用したフェルト帽の生産で栄えた帽子産業の中心地でした。川が近く、毛皮の供給が豊富だったことがその背景にあります。

2000年、旧バターズビー帽子工場の跡地に “Hat Works Museum”が開館。

英国唯一の帽子専門博物館として、ボーラーハット(山高帽)や様々な帽子の歴史を紹介しています。

博物館では、帽子製造の工程やイギリスを代表する帽子デザイナーの特別展示、ワークショップも開催。2024年には、20世紀の帽子ファッションをテーマにした企画展「Hatting the High Street」が話題となりました。

-開館時間: 火曜~土曜 10:00~16:00(最終入場15:30)、日曜・月曜休館

- 入場料: 無料(寄付歓迎)、ワークショップや特別イベントは有料の場合あり https://stockport-museums.arttickets.org.uk/hat-works-museum-of-hatting/2023-07-13-hat-works-factory-floor-tour-1

🔗 [Hat Works Museum]

ストックポートの誇るこの博物館は、帽子と歴史を愛する人々にとって必見のスポットです。


Stockport、おすすめスポット

The Plaza: アールデコの魅力

Hat Works Museum からほど近い “The Plaza” は、1932年に建てられたアールデコ様式の映画館兼劇場です。

クラシック映画の上映やライブショーが楽しめ、併設の “Plaza Caféでは豪華なアフタヌーンティーやランチを提供。優雅なティールームで、忙しい日常から離れたひとときを過ごせます。

🔗 [The Plaza]https://stockportplaza.co.uk


ロンドンで不思議の国のアリスを体験

The Mad Hatter Hotel : Tress & Co の歴史をまとう

ロンドン・サザーク地区の The Mad Hatter Hotel は、19世紀の帽子工場 Tress & Co のビクトリア朝建築を活かした魅力的なブティックホテルです。

Tress & Co は1850年代に創業し、ボーラーハット、トップハット、軽やかな ボーターハット(カンカン帽)を生産。水銀を使った「キャロッティング」技術で知られ、サザークの帽子産業を牽引しました。1953年に老舗帽子メーカーの Christy’s に売却されるまで家族経営を続け、パッラーディオ風のファサードやアーチ窓がその歴史を今に伝えています。

ウォータールー駅から徒歩10分、サザーク駅から5分、賑わうバラ・マーケット やテート・モダンにも近く、観光に絶好の立地。

1階の Fuller’s パブでは、芳醇な英国ビールとボリュームたっぷりのイングリッシュブレックファーストが楽しめます。

『不思議の国のアリス』に彩られたイラストや、Tress & Co の帽子、工場の写真が飾られた空間は、ビール愛好家や帽子ファン、歴史と物語を愛するすべての人に魔法のようなひとときを約束します。

ロンドンの喧騒の中で、ユニークなストーリーと心地よい滞在を求めるなら、The Mad Hatter Hotel はまさに「不思議の国」の入口。歴史の息吹を感じながら、特別な旅の思い出を!

神戸 エメラの帽子教室

「帽子を自分で作ってみませんか?」 I'm Japanese milliner in Kobe. I also teach hat making at home. Why don't you try to make a your hat with me? 帽子職人・研究家 エメラ